CASK

2022 / Yoyogi, Tokyo / Photo Studio

スティルライフを専門とするフォトグラファー集団のスタジオのデザイン。
大小2つの大きさの撮影スタジオを設置することと、同席する編集の方が心地よく待合を使えるようにすることが要望だった。予算に限りがあるなかでCASKとしてのアイデンティティを確立しながら質の高い空間を創造することが課題であった。ディスカッションを重ねる中で「組み立てて解体して引っ越しができる」という会話をヒントに、絶対的な空間の完成形を求める必要はあまりなく、ほどほどに「未完成な状態」をキープすることが、彼らの次への挑戦を後押しできるのではないかと考えた。


「組み立てて解体もできる仮設的な空間」
まずは建築をスケルトン状態まで解体し、竣工当時の時代背景を想像させる荒々しい床・壁・天井に新たな素材を仮設的に取り付けていった。壁は通常LGSに両面からボードを貼り塗装やクロスで仕上げるところ、ここでは片面貼りのみで仕上げ無しのボード素地現しでメーカーのスタンプがそのまま見えているような状態とした。鍋ビスもそのまま見えている状態なので、電動ドリルで解体することが容易であり、引っ越しの際は建具と枠を解体して利活用できる。床は躯体コンクリートを研磨し、待合エリアとなる範囲のみ薄っすらと白い塗装をかけて空間の境界を床からさりげなく創出している。


「編集可能な什器」
天板のベニヤに琥珀色の染色をかけて飴色のツヤを出したハイカウンターは、撮影物を仮置きしたり、カメラ機材の準備をしたり、食事の際にはお弁当を並べたり、終業後にはバーカウンターとしたり…など、撮影時間の経過に合わせて多様に活用されている。足元は軽量の単管を組み合わせ連結し、ナンバリングサインを施したプラスチックのコンテナを入れて収納庫としている。いざとなれば二重になっている天板を分離させて2つの什器として利用したり解体したりすることも可能だ。


「着せ替え可能な間仕切り」
エントランスから見て正面の赤いテキスタイルは、作業カウンターと打合わせエリアを隔てる柔らかな間仕切りだ。パイプに吊るしただけの仕掛けだが、視線を遮りながらも、窓からの光をゆるやかに取り込んでいる。引き渡し時は赤い布だったが、季節に合わせてクライアント自らテキスタイルを変えることで、まるで衣替えをするように、空間の変化を楽しむことができる。


「CASKの由来と、VI・サイン計画」
VI・サイン計画はSTUDY LLC.のデザイン。ウィスキーの成熟樽を意味するCASK(カスク)。そこに使用されるステンシル書体を軸に、オリジナル書体を作成。スタジオ内のサインはステンシル版を用いて施主とデザイナーのDIYによって施工されている。通常であれば破棄される「版」自体に利用価値を見出し、ステンシル版自体をエントランスサインとして活用して、同じ空間内に「刷るもの/刷られたもの」を同居させている。今後必要に応じて版を再活用しサインを追加することも可能だ。ウェブサイト、名刺などのツール類も同じ書体でデザインしている。「編集可能な空間」という空間コンセプトに調和した力強いデザインが実現した。
第57回日本サインデザイン賞 にて銅賞を受賞。

CASK

Year: 2022 / Location: Yoyogi, Tokyo / Category: Photo Studio / Client: CASK / Sign design: STUDY LLC. / Photographer: Kenta Hasegawa

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